濁りの無い澄んだ瞳を、食い入るように観察する。
 すると、そんな私に何を感じたのか、彼は緩慢な動作で前髪をかき上げ、小さく溜息を吐いたかと思うと、悠々と口を開いた。

「――さあ? 悪いけど、人違いじゃないかな?」

 けれども返って来た答えは、淡い期待を裏切る残酷なものだった。

「う、うそ……! そんな筈ないっ!」
「って言われてもねぇ。確かに俺の名前は(ハル)だけど、全く心当たりも無いし。逆に何を理由に、その――ハルくん? だと思ったのか、教えて欲しい位なんだけど?」

 キシリと寝台を軋ませ私から身を引いた彼が、億劫そうに胡座(あぐら)をかく。
 更に欠伸を噛み殺しながら片膝を立てると、肘を付いた片手に顎を乗せ、絶句する私を尻目に心底不思議だと言いたげに首を傾げた。

 まさか否定されるとは思わず、今日もう何度目か分からない眩暈(めまい)を覚える。

「理由って、そんなの、よく見るとやっぱり似ているし……それに、確か指先にハート型の黒子(ホクロ)があった……!」

 上半身を起こしつつチラりと彼の指先に目を遣る。
 薬指の先にあった、ハート型に見えなくもない小さな黒い点。