ごく自然に髪の毛を掬い、口付ける仕草を見詰めながら「逃げられない」咄嗟にそう思った時――唐突に、記憶が疼いた。

 視線が絡み合う。

「……ハル、くん?」
「!」

 私が小さい頃から、恋焦がれ、探し続けていた初恋の人。

 何をきっかけに思い出を刺激されたのか、遠い面影がいきなり、彼に重なった。
 見た目、声、仕草、表情、内面に成長による変化を感じ取っても、何故かハッキリと。

 「彼だ」と、全身が告げていた。

「ハルくん、だよね……? 私、昔ある病院で入院してた時、貴方に会った事あるの。……覚えてる?」

 もう一度、込み上げる感情を宥めながら震える声で懐かしい名前を呼んだ。

 同時に、いつの間にか私の頬に添えられた繊細な指先が再びぴくり、僅かに揺れる。

 彼が反応を示したのを、私は見逃さなかった。