少しでも動けば、彼の唇が耳朶に触れてしまいそうな距離で、頭がクラクラした。突き放そうにも、初めて覚える感覚で体に力が入らない。
白シャツから覗く鎖骨が妙に扇情的で集中出来ず、考えが纏まらなかった。
「あ、のっ、スマホが、ずっと鳴ってて、起こそうと……それでっ」
「うん? ああ……成程」
熱に浮かされたような感覚に声が詰まりながらも、何とかしどろもどろに伝えれば心当たりがあったらしい。直ぐに相槌が返って来る。
……それだけ?
追求されず呆気無く終わった問答に、ぽかんと惚けてしまった。
てっきり勘違いされて糾弾されるかと思っていたので、拍子抜けする。
それにこの態勢。
動揺が大きく抵抗する暇も無かったが、こんなシチュエーションになる理由が全く意味が分からず、混乱は極まるばかりだった。
