忘却ラブシック ~あまのじゃくな君には騙されません~



 (てのひら)にじんわり汗が滲む。

 ああ、最悪なタイミングで起きてしまった……これは言い逃れ出来ない気がする。

 向こうからすれば、目が覚めたら見知らぬ女が私物を漁っていると言う状況。私から見ても物凄く怪しい。
 仮に素直に答えたとしても、「他人に来ていた連絡が急を要するかも知れないから」なんて、一蹴(いっしゅう)されそうな理由だ。

 隣人がほんの少し気になった、と言う好奇心が無かった訳ではないけど……第一、初対面の人間の言葉など、一体誰が信じると言うのだろう。

 それに(やま)しい事が無ければ動揺する必要もないし、即答出来なかった時点で詰んだ……せめて、もうちょっと寝ててくれたら良かったのに。

 狼狽(ろうばい)する心の中でどうしたものかとあれこれ言葉を巡らし、絶望的な気分に陥る。

 すると次の瞬間、背を向けたまま口を閉ざす私に痺れを切らしたのか、更にぐっと引き寄せられた。

「っえ、わ……っ」