果心と2人で話していたリビングを出て隣のキッチンに向かうと、そこにいたのはやはり皆藤さんだった。だけどなぜか、ひどくうろたえている。


「お父さんが……お父さんが交通事故に遭って、命が危ないなんて……!」


 ……えっ。


「信じられないのも無理はありません。しかし、これは紛れもない事実でございます。私どもは常にみなさまの幸せを願っておりますので、嘘を申し上げることなどございません」


 嘘だ。今、しれっと嘘をついた。


 私と九条くんを騙しておいて、更に皆藤さんまで計ろうとする声に怒りが沸くけど、今はそれどころではない。


「親の危篤にも会えないなんて、そんなの信じられない! 私たちの幸せを願ってるってんなら、皆藤さんを早く家に帰してよ!!」


 私が踏み出すより早くキッチンに出て行ったのは、さっきまで隣で一緒にこそこそ隠れていたはずの果心だった。


 遅ればせながら私も参戦する。


「そうだよ! 私たちはともかく、皆藤さんだけは一旦家に帰すべき!!」


 娘が行方不明の状態で、命の危ない状況で戦うお父さんはどれだけ不安だろう。皆藤さんも、一刻も早くお父さんの顔を見たいはずだ。