「誰って、誰でもいいじゃないですか。先輩も寂しかったでしょう? 僕が慰めてあげますよ」


「いや……っ!」


 首筋に噛みつかれる。がり、と音がしてじんとした痛みがあとからやってきた。


「離してっ、やめて……っ!」


「泣いてるんですか? 無駄ですよ。僕たちは命がかかっているんです。九条先輩と仲良く恋愛ごっこしてるあなたとは違うんですよ!」


 「恋愛ごっこ」。その言葉が何よりも、私の傷口をえぐった。


 どうして私はこんなにも、多くの人を傷つけてしまうんだろう。どうして私はこんなにも鈍感で、傷つけたことにすら気づかずに生きてしまうんだろうか。


「……諦めましたか」


 抵抗をやめた私に、目黒くんが呟いた。


「もう、つまらないからいいです。僕レイプ好きとかじゃないし」


 腰の上にのしかかっていた重みが消えるのを感じる。その後、扉が閉じる重たい音がした。


 その日、館に来てから初めて、私は晩ごはんを食べなかった。





 3日目「近くにいる人」END。