朝ごはんを食べ終わり、私は席を立つと重厚な白い扉の前に向かった。


 ネームプレートには「九条」の文字。


「道花です。入ってもいいかな?」


 返事はない。だけど数秒後、


「……うん」


 いつもの猛々しい九条くんとは全く違う覇気のない返事。だけど、久しぶりに自分に向けられた彼の声に、少しだけ心が躍ってしまう。


「最終日だしさ、きちんと話をしておこうと思って」


「……俺に上野と話す資格なんかあるのか? 俺は上野を……騙して、たのに」


 その言葉に、私はぶんぶんと首を横に振った。


「たしかに九条くんは私のことを好きじゃなかったのかもしれない。荻野さんに命じられて……その、キスまでしたと思うと、正直嫌な気持ちはある」


 でも。でも……!


「私が九条くんを好きになった気持ちは、嘘じゃないから……!」


 九条くんは荻野さんの命令で私に近づいてきた。今思えば、家事当番だったり手錠イベントだったり、あまりにも九条くんと接する機会が多かったのは仕向けられていたのかもしれない。


 だけどそのことと、私が九条くんを好きになったということは全く別の話だ。