入学式前日
「蓮!おつかれ〜」
そう言ってタオルとスポーツドリンクを渡す。
「ありがとう、叶夏」

私の幼なじみ、河田蓮は中学の時から陸上部に入って毎日走ってくうちに県でも名の知れた人になった。
私、柏木叶夏も陸上部で蓮と一緒に走ってたけど1ヶ月前に蓮と自習練してたら足を挫いて捻挫してしまった。
今はまだ走らない方がいいと先生に言われているのでマネージャーぽいことをしている。

「明日入学式なのに練習怠りないね〜」
「明日入学式だろうが俺は走る」
「まぁうちらには入学式関係なく毎日練習だもんね!」
蓮は真面目だから練習はサボったことはまずない。
反対に私は飽き性でなんでもすぐサボったりする。
そんな私が3年間陸上を続けてこれたのは毎日しつこいくらい練習に誘った蓮のおかげだった。
「れーんー、あとどれくらいするの?」
「今日は団地3周したら終わる」
「ですよねー」
全てにおいて真面目なのに勉強だけはどうも苦手らしい。
蓮は高校は陸上の推薦で入ったけど、推薦なかったら、名前書いたら受かるような高校に入学してただろう。
ちなみに私も陸上の推薦で入ったけど、蓮ほど馬鹿ではない。

入学式当日
「ねー!校舎広くなーい!?」
「入試の時1回行ったでしょ。」
「こんな冷たい態度だったら高校の間で彼女できんよ〜」
「お、おら、俺は彼女とかいらねーし。」
「動揺しすぎって!出来なかったら私が彼女になってあげる」
「だからいらねーって言ってるでしょ!」
蓮をからかうのは面白い。
そんな話をしているうちにクラス発表の時間になった。
「あ!蓮!4組!私と一緒!」
「クラスも部活も一緒ってそのうち鼓膜破れるわ」
「ひどーい!」
柏木と河田なので席は前後。
うちらって運命なのかも!?

入学式
「昨日映画鑑賞してたら夜中の2時だったんよね。めっちゃ眠い。」
「それは叶夏が悪い。」
「──新入生代表 横田美音。」
「はい。」
新入生代表の人が呼ばれ壇上に登る。
美音ってどっかで聞いたことある名前な気がするけど…?

式が終わり各自で解散になった。
「やっぱり式とかだるいねー。」
「大事な行事の一環だからだるいとか言わない」
やっぱり蓮は真面目だ。
「今日も走るの?」
「うん、だから…」
「分かってる。ちゃんと付き合いますよー」

「久しぶり、蓮と叶夏。」
「久しぶり待ってたよ、美音。」
「え?どーゆうこと!?美音って新入生代表の…」
美音って人と蓮は微笑んでいた。
「叶夏ひどいなー、私のこと忘れるなんて」
「幼稚園。3人で遊んだろ?」
いや、名前は聞いたことある気がするけど全く覚えてない!
「幼稚園?全然覚えてない。」
「叶夏、美音行かないでー!って鼻水垂らして言ってたのにな」
「それは蓮も同じよ」
「いやーごめんなさい、分かりません。」
そこから3人で帰っているけどずっと沈黙。
「桜井美音って言ったら覚えてるかな?」
「…あ!」
そこでようやく思い出した。
「中2の冬にお父さんの会社が倒産してさ、そこから就職活動するけど、全部落ちてからギャンブルにハマってしまったの。勝った時はめちゃくちゃ機嫌がいいんだけど、負けた時はお母さんに暴力振るってから、家はぐちゃぐちゃ。お母さんがパートでいない時は私にも暴力振るってからね。お母さんも私も精神的に追い込まれてたけど、それでもお母さん離婚したくないって言うのよ。」
美音の中学生時代は私たちの想像を絶するものだった。
「でも苗字変わってるってことは…」
「うん。離婚の決定的理由はお父さんが他の女と子どもを作ったんだって。お父さんから離婚届を突きつけてそれっきり会っていない。お母さんはそれで鬱になってしまってこの街の精神科病院に入院することになったの。だから高校入学とともにここに戻ってきたっていうわけ。」
私は言葉が出なかった。
「なんか出会って最初にこんな話してごめんね。いずれ話さないといけない時来るかなって思って。蓮はこの話もここの高校に来ることも知ってたのよねー?」
「え?なんで!?」
「しょっちゅう電話しててな。」
「私にだってしてくれたって良かったのにー」
「忘れてたら意味無いでしょー」
「たしかに」
美音は明るく話していたけど、どこか寂しそうな顔をしていた。
“泣いてもいいんだよ”
って言おうとしたけど
「2人とも!早く帰って昔話しよ!」
って言うから言えなかった。
「蓮、今日の練習は…?」
「なし…だな。」