「…史花さん。」
久しぶりに呼ばれた下の名前。
「…史花さん?」
「…はい。」
返事だけして、でも目が合わせられない。
「史花さん?
こっち向いて下さい。」
急にトーンが変わった斎藤くん。
「ちょっと今、無理か、も…。」
斎藤くんに史花さんと呼ばれただけで
こんなにも心が落ち着きをなくしてしてしまう。
「史花さん、
何で本当のこと言わないんですか?
倉持さんから聞きました。」
「…。」
そう言われて、デスクの椅子に座り直した。
「今日仕事の後会ってたんです。」
「…。」
「で、その後史花さんち行っても帰ってないし、まさかここかなと思って来てみたんです。」
「…。」
「俺が言ってたって言ったんですよね?
上司は利用しろ、取り入れって。」
「…。」
「何でまだ倉持さんを守るんですか?」
「…違う、よ。」
「何がですか?」
「…さっき言ったことも全部本当だよ。」
「…。」
「…ずるいんだよ、わたし。」

