自転車で通える距離なのに、
わざわざうちに来るなんて。
そう思ったけれど、
実際食材は傷んじゃうし、助かる。
お言葉に甘えようと思った。
いや、色んな理由を並べながらも
やっぱり本音は嬉しい。
ピンポーン
「はい、どうぞ。」
オートロックを解除して
上がってくる間に
扉の鍵を開けておく。
物音がして「開いてるよ!」と
ドアに向かって言うと、
すっごく不機嫌そうな斎藤くん。
「いらっしゃい?」
「大河内さん!
俺じゃなかったらどうするんですか!」
初めはぽかんとしていたけれど、
今のドアの鍵のことだろうと思ったので
「ごめんなさい。」
と、素直に謝った。
「心配になりますから、やめてくださいね?」
と、頭をポンポンとして
お邪魔します、と手を洗いに行った。
斎藤くんと居ると、調子が狂う。
上司なのに、女の子扱いされてしまう。
嬉しいような、ちょっとむず痒いような。
「わ!すごいね!料理人じゃん!」
「全然、切って入れて火かけただけですよ。」
と笑う斎藤くん。
あ、かっこいい。と
ふとしたことも全部好きに繋がる。
「美味しいねえー。」
と幸せな気持ちになる。
「史花さん、」
大河内さん、じゃなく、史花さん。
急に呼ばれてとんすいを落としそうになった。
「って呼びますね?」
彼の中ではもう決定事項のようだ。
大河内は長い、と文句を言われた。
「どうぞ、お好きに。」
と、余裕ぶって返事をした。

