「ねえ、斎藤くん。」
「何ですか?」
「美味しかったし、すごいありがたかった。」
「それはよかったです。」
「でも、上司にだからって
ここまでしなくてもいいよ?
斎藤くんも仕事終わりで疲れてるはずでしょ。」
そう言うと、斎藤くんの周りの空気が
変わった気がした。
はあぁぁー。
大袈裟と思うくらいの大きなため息をついて、
「あのねえ、俺だって、
誰にもこんなことしませんよ?」
と、期待させるような言葉。
それに胸が高まるわたしは完全に彼が好きだ。
またしっかりと自覚してしまった。
「…う、ん?」
「だーかーら、」
♪〜♪〜♪〜
話を遮るように電話が鳴った。
画面には佐々木部長の文字。
ごめん、とジェスチャーすると、
ふぅ、と一呼吸置いて、
どうぞ、とジェスチャー。
「もしもし、お疲れ様です。
お休みすみません。」
「おー、大丈夫か?」
「あ、はい。もうほとんど熱はなくて、」
「何か差し入れいるか?
どーせまた何にも食べてないんだろ?」
部長の声が大きめで、
斎藤くんに聞こえてるかも、と
寝室に行こうと立ち上がった。
と、同時に腕を掴まれた。
声が出そうになるのをギリギリで抑えて、
「いや、あの、本当に大丈夫です!」
「つーか、何で敬語?」
「え?あ、それは…うん。」
「何だよ。」
「いや、うん。大丈夫。ありがとう。」
「無理すんなよ、史花んち寄ろうか?」
「いやー…、」
掴まれた腕が急に離された。
え?と思うと
斎藤くんのスマホの画面を見せられた。
俺、邪魔っぽいんで帰ります。
と、一言。
「え、ちょっと、」
玄関まで歩いて行ったと思ったら
ドアを開けて振り返らず閉められた。
「何だよ。」
「いや、違う、」
そこからの部長との会話はほとんど覚えてない。

