上司を甘やかす方法



仕事中、確かに頭痛はあった。
元々偏頭痛持ちだし、いつものだろうと思った。
そして時間は17時過ぎ

「戻りました。」

「あ、お帰り。あれ、帰ってよかったのに。」

他社の打ち合わせに行っていた斎藤くん。
直帰じゃなかったの?

「ただいま戻りました。これ、変更資料です。」

「ありがとう。」


と、資料を受け取っても
わたしの顔をじっと見る斎藤くん。

「大河内さん?」

「なあに?」

ちょっと、とフロアの扉の前に呼ばれた。

「調子悪いんじゃないですか?」

「そんなことないけど?」

急におでこに手を当てられた。

「わ!びっくりした!」

と、誤魔化しながらも、
心の中ではドキドキしてる。


「結構熱いですよ!」

ほら、とわたしの手を取って
斎藤くんのおでこに当てる。

「はい、自分のおでこも触ってみて?」

そりゃこんなシチュエーション熱も高くなる。
と思いながら触ると、確かに熱い。
思っていた以上に熱かった。


「わ、ちょっと熱っぽいかも。」

「ちょっとじゃないです!
今日は残業禁止ですよ!
家まで送りますから、
帰る用意して待ってて下さい。」

そう言うと、言葉を発する隙も与えずに
どこかへ行ってしまった。



「…すみません。
今の今まで気づいてなかったんですけど。
熱っぽくて、今日はもう帰ってもいいですか。」

部長の席に行くと、
「大丈夫かよ、
気にしなくていいから早く帰れ。
明日も無理せず、休んどけ。」

とピシャリと返された。

みんなに声を掛けて帰る用意をして、
フロアから降りようとエレベーターを待つ。

「史花、大丈夫か?」
後ろを向くと、部長。

「大丈夫大丈夫。
自分でも気付いてなかったし。」

「送ろうか?」

「ううん、何か斎藤くんが送ってくれるって、」

と言うと…

「へえー。」
とニヤニヤするおじさん。

「気持ち悪いんだけど。」

「斎藤を襲うなよ。」


この人は!病人に!!

「襲わないよ!失礼な!早く戻れば?」

と、言うと部長は楽しそうに戻って行った。
わたしはと言うと、
ありがたいけれど、ドキドキしているし、
まず第一自転車通勤なのに、
と疑問が浮かんだ。