彩Side

教室の入口で物音がして、翔かと思って顔を上げたら後輩だった。
コミュニケーションをとるのが得意なその子は、少しの間話し相手になってくれていた、のに。

(俺、結構本気で花宮さんのこと好きっす)

ただのサークルの後輩だと思ってたのは私だけだった。
その目があまりにも真っ直ぐで、心臓がうるさい。

「、かけ、る?」
『わり、邪魔した?』

その後輩の先に私の想い人。
それに気づいてさらに心臓が鼓動を速めた。
なんの感情も読み取れないその表情に、恐怖さえ感じた。
後輩は帰ってしまって、翔が教室に足を踏み入れる。

『…何の話してたの?』
「え?あー、去年の過去問ないかって聞かれた。私が勧めた授業取ってるらしくて、」

いつも通りの翔なのに、その目は何だか怖くて。
翔の顔をまともに見れないよ、

『彩さ』
「ん?」
『俺のこと好きなんじゃねーの?』

私の目の前に両手をつく翔が、私の顔を覗き込んだ。
あの日、酔った私が言った言葉を、彼は信じてないんじゃないかって思ってたのに。
それに、あなたは断ったじゃない。分からないよ、

「え、っと…、」

なんでそんなことを聞くのか、なんて答えてほしいのか、そもそもなんで翔とこんな状況なのか、飲み込めずにフリーズしていると近づいてくる翔の顔。
優しく触れた唇に、目を見開くしかなかった。