**

高校2年生になって訪れた初冬ーー


一年前に経験した静かな冬の訪れとは、今年は大きく違っていた。



ざわめく街並みに光を灯す店の飾りはすっかり冬の装いになり、街行く人々は厚手のコートやマフラーを身に纏っている。


「はぁ」
 

深く溜め息をついた吐息は白く濁り、夜の冬空へと消えていった。


時計を見ると、待ち合わせしていた約束の時間を過ぎている。


街の時計台のオブジェの前で待ちぼうけていると、突き刺すような冷たい寒気が私の指先を悴(かじか)ませる。


苛立つ気持ちを落ち着かせる為に近くのコンビニに立ち寄って温かい飲み物を買うことにした。


「ねぇこれ、テレビに出ていた子じゃない?ほら」


入店すると、二人の若い女性が雑誌を見ながら笑顔で話をしている。

手にしている雑誌を見ると、光のことが書かれている特集ページを開いていた。




あの優勝から、光はテニス界の若手のエースとして大々的に沢山の人達に注目されるようになった。

幼少の頃からテニスの練習に励んでいたのを傍で見守っていた私にとっても、光の今の躍進は嬉しい。


だけどーー


「影!」

「わ!」

ぽんっと背中を押され、振り返ると、ベージュ色の厚手のコートに淡い緑のマフラーを巻いた光が無邪気な笑顔で立っていた。


「影!ビックニュースだよ!私ついにやったんだよ!」

光は私の両肩を力強く掴み、小さな子供のようにはしゃいだ。

「これ!」と私に差し出した紙を見ると、留学案内と書かれていた。


ーー留学って。

「光…これ…」


突然のことに言葉を失った。


「ビックリしたでしょ?実は、家を出る前にこれが届いて興奮しちゃって…遅れて本当にごめんね、でも私嬉しくて!家族に話していたら約束の時間を過ぎていて、走って来たんたんだけど」


「光、留学って…?」

「あ!実はね、県大会に優勝した後に私の試合をテレビで観てくれていたアメリカにある有名な選手養成校から留学してテニスの練習をしないかって誘いがあったの!」


「アメリカって…」


瞳をきらきらと輝かせながら、興奮気味に話す光を私は受け入れらず混乱していた。


「でも、まだ…高校生なんだよ私たち、それに留学って、急すぎるし無理だよ、それってまだ先のことなんでしょ?」


まるで行き場のない怒りをぶつけるように話す私に、光は笑顔を失った。