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県大会でのシングルスの個人戦試合で、光は決勝まで勝ち残り見事優勝を手にした。

ダブルスの団体戦でも、我が校のテニス部は3位と言う見事な結果を残した。


硬式テニスの強豪校とも知られる我が校からの優勝者に、様々なメディアからも注目を集めた様子だ。

また、結果だけではなく光のその端正な美しい容姿や、明るくボーイッシュな性格全てがメディアから大きく注目されていた。


私は、その様子を遠くから見守っていた。


メディアからの質問やカメラの撮影に応えている光は、いつもより眩しく輝いていてーー


何故か、とても切なくなった。


一瞬、私の手の届かない遥か遠くの人のように感じた気がした。



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選手専用の控え室からは、試合を終えた他校の部員がぞろぞろと出てきた。


私は、光達部員を控え室の外で待っていた。 


その中から、満面の笑みの光とテニス部員達が嬉しそうに肩を組んで楽しそうに出てきた。

祝杯ムードで、皆はしゃいでいる。


「あ!影!」


待っている私に気付いた光が、満面の笑みで私に駆け寄って来た。

私も光に優しく微笑み返す。


「優勝出来たのは影のおかげだよ!ありがとう!大好き!」


そう言うと、部員たちの前にも関わらず私を強く抱き締めた。


「ちょ…ひ、光?」

ーー恥ずかしいのに、嫌って言えない。


「影…本当にありがとう」

光の優しい香りに包まれていると、呟くように私の耳元で囁(ささや)いた。 


ーー光…大好き。


「光、本当におめでとう…」


抱き合いながら幸せな雰囲気に浸っていると、誰かの強い視線を感じた。


ふいに部員の方を振り返ると、佐久間さんが冷ややかな眼差しで私を睨みつけている。


「ひ、光…ちょっとお手洗い付いてきて…お願い!」


「いいけど…あ!ちょっとお手洗い行ってくるから先に帰りのバス乗ってて」


光を引っ張り、施設内の女子トイレに駆け込む。



「影、どうしかした?」 


焦る私を見て、心配そうに首を傾ける。


「ねぇ、光…あの、佐久間さんのことなんだけど」


「佐久間部長のこと?」


「佐久間さんのこと、本当に…気にならないの?」


私が不安げな表情で尋ねると、光は優しくそっと私を抱き寄せる。


「…不安なの?」


胸の鼓動の音が早まるのを感じながら、光の胸元に顔をそっと寄せ、こくん…と頷いた。