暖かく優しい春風に乗って桜の花びらがひらひらと舞い散る季節。


あの日ーー高校2年生の私は、貴女に恋をしていました。 


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校門の白い壁に背をもたれかけ、好きな人を待っていた。

日が沈み、辺りは薄暗くなり始めている。


オレンジ色に染まる空を渡って行くカラスの鳴き声が、今日も一日の終わりを私たちに伝えていた。


「影、まだ待っててくれてたの?」


聞き慣れた声に顔を上げると、部活終わりの光が制服姿でそこに立っていた。

「あ、光…お疲れ様」

私は、優しく微笑みながら光に駆け寄った。

「待っててくれなくていいのに、私ほら、大会が近いし遅くなるから」

そう言って申し訳なさそうな表情をする光に、私は微笑む。

「いいよ、私が待っていたいから」

「そう?」


私と光は横に並んで、ゆっくりと帰り道を歩き出した。

「県大会、もうすぐだもんね、練習大変でしょ?」
 
「うん、もう毎日大変だけど…やっぱ優勝したいからめげずに頑張ってる」


私の問いかけに、光は私に微笑んで力強く答えた。

横に並んで歩く光の制服から、ほのかに汗の香りを感じる。

手の甲が微かに触れ合う距離で、こうして傍にいられること。


私は、この一時がとても幸せだったりする。

光は、汗が滴る濡れた前髪を無造作に掻き上げて、額に伝う滴をタオルで拭った。


「光、ちゃんと汗拭かないと風邪引くよ」

そう言って、私はスカートのポケットに入っていた真っ白なハンカチを取り出し光の額にそっと触れた。


光ーー上八木 光(かみやぎ ひかり)は、幼稚園からの幼馴染み。


まるで沈まない太陽のように眩しい程に輝いて、ずっと私を照らし続けてくれる。 


彼女は私にとって、太陽のような存在だ。
 

テニス部のエースでありながら、クラスの中心で成績優秀な光に私は憧れと特別な感情を抱いていた。


「光なら絶対優勝できるよ」

「ありがとう、影がいつも傍にいてくれるから私頑張れるんだよ!」 


そう言いながら、光は私の腕に無邪気に寄りかかる。


彼女が私に触れる度に、私の胸の鼓動の音が早まり頬が火照るのを感じていた。