契約結婚！一発逆転マニュアル♡

テーブルの上には、お茶とモダンなお重箱が置いてあり、四人で口にすればそれはホテルの厨房で作られた味だとすぐに分かった。

お客様に提供するお料理とは違い、あくまでも依舞稀様に作られたスペシャルランチといったところだろう。

もちろん味も絶品で申し分ないのだけれど、これを作るためにホテルの従業員の手を煩わせていると考えると、これ一回だけにしておいてもらおうと依舞稀は思った。

厨房で働いている同期の知晴が、これを作っていることを知らないはずがない。

ただでさえ忙しいと言っていたのに、これを見たら何と思うだろうか。

ここにいる三人と同期の四人だけは、今まで通り変わらず自分と接してほしい。

そう願っている依舞稀にとって、この特別待遇は有難いのだけれど遠慮したい事だった。

「男は臆病だからね。自分に力がないことを悟ると、力を持つものに尻尾を振って、自分の立場を守ろうとする生き物なのよ」

花音はそう言ってカニグラタンを口に運んだ。

「自分の力で何とかしようとするのって、基本的に努力を力に変える事ができる人だけだよね。あとは全然ダメ」

璃世もそういうとキノコとチーズのキッシュを口に入れ、恍惚の表情を浮かべる。

「いま依舞稀さんに媚びてる人は、仕事ができない駄目な男です。そんな人達は無視ですよ」

程よく酸味の効いたタコのマリネをお茶で流し込み、美玖は次の獲物を狙いながらそう言った。

「こんなに素敵なホテルでバリバリ仕事をしている人たちの陰で、あんなに仕事できない人間がいたなんて。なんだか溜め息が出ちゃう」

言葉通り、依舞稀は深くて大きな溜め息をついた。