マンションを背にして車を走らせること5分ほどで、電車の駅に到着した。

車の方が回り道をしなければならないことを考えると、徒歩15分弱といったところだろう。

これならば今まで住んでいたところと変わらないか、少し楽になったくらいだ。

普通に電車通勤させてもらった方が有難いのだが。

「どうしても公共機関を使わざるを得ないときは、駅からタクシー使えよ?ここら辺は確かに治安は良いほうだが、いつ何時何があるかなんてわからないんだからな」

「そんな大げさですよ。世の社会人の方たちは皆、これくらいの距離は当たり前に歩きます」

「全く危険がないわけじゃないだろ。ニュースになりたくなかったら、大人しく言うこと聞いとけ」

「言い方、めちゃくちゃ上からで腹立つんですけど、要は心配で仕方ないってことなんですよね?」

依舞稀が溜め息交じりにそう言うと、「はあっ?」と遥翔がムキになる。

「違うだろ!中学生時代の卒アル写真をニュースで流されたくなけりゃ、言うこと聞いとけってことだよっ」

「はいはい、わかりましたよ。そういうことにしときますから、思う存分心配してください」

「だから違うって」

大人げなくムキになるところが、慣れればかわいく思える要素になるかも知れないな、と依舞稀は思った。

何だかんだと口では憎たらしい言い方をする遥翔だが、根本は心配からきているものだと最近わかってきた依舞稀だった。