二人で家を出ると、エレベーターへと向かう。

昨日遥翔から半分拉致のように連れてこられた時は、焦りと不安ばかりで他のことを感じる余裕もなかったが、改めて見ると本当に綺麗な高級マンションだ。

手入れも十分に行き届いていて、共有部分には塵一つ落ちていない。

コンシェルジュのいるマンションともなると、こんな所から一般ろは違うものなのだろうか。

自分が本当にここの住人になろうとは、昨日の昼までは考えもしなかった。

それはそうと、昨日は遥翔の車で帰って来てしまったので、ホテルへの通勤ルートをなにも調べていなかったことを依舞稀は思いだした。

「あの……」

「なんだ?」

「ここからホテルまで、どうやって通勤したらいいんでしょうか?バスか電車、近くにあります?」

「何言ってんだ。俺がいるのにどうしてそんな思考になるんだよ?」

遥翔は呆れたような、しかし少し怒ったような表情で依舞稀を見た。

「そんな顔しないでくださいよ。私はただ、出勤時間も退勤時間も常に同じなわけじゃないから、一緒にならなかった時のことも考えて知っておいた方がいいと思っただけなんです」

依舞稀は遥翔が何時に出社しているかも、何時に退社しているかも把握できていない。

今までそんなことに気を取られている余裕もなかったのだから当然なのだが。

この前みたいに遥翔に出張などあった場合、ここからホテルまで一人で行けるようになっておかねば何かと不都合なのだ。

正直言うと、それくらいの息抜きがあってもいいんじゃないか、とも思っていた。