ベッドに入る前は異常に緊張していた依舞稀だったが、遥翔から強引に引っ張り込まれてしまった。

今までの人生の中でこんな経験をしたことがなかった依舞稀は、最初こそ緊張で固まってしまったのだが。

ベッドの中の遥翔は、依舞稀の首の高さに合わないぎこちない腕枕をしてくるし、抱きしめるというよりは巻きつかれるという表現が正しい添い寝状態。

ときめくというよりも修業のような気持ちで眠りについた。

朝目が覚めてからの第一声も、甘い微笑みでの『おはよう』ではなく、『うわっ、びっくりした』だった。

「初日からウンザリする……」

洗面台の鏡に映る、朝から疲れた表情の自分を見て、依舞稀はポツリとそう呟いた。

かたや遥翔は、満足感でいっぱいであった。

今まで女を腕枕どころか抱きしめて眠ったことなどない遥翔にとって、やってやった感で頬が緩む。

どう抱きしめていいのかわからず、若干抱き枕の要領に近かった気もするが、それは今後慣れていけばいい。

時間は気が遠くなるほどにあるのだから。

二人で悠々と眠れるようにキングサイズのベッドを購入しようと考えていた遥翔だったが、やっぱりクイーンサイズに変更しよう、と密かにそんなことを考えていた。

二人の朝食は前日のデリバリーの残りで済ませ、出勤の準備をする。

朝準備でやっていることは昨日までと何も変わらないというのに、環境が一日で大きく変化した彼等にとって、戸惑いと緊張と照れの入り混じった時間となった。