遥翔はゆっくりと椅子から立ち上がり、一歩ずつ依舞稀との距離を詰めていく。

「どんな理由であれ、うちは副業禁止だぞ。ここをや辞めてホステス一本でやっていくのか?」

「それは……」

出来ることならばそんなことはしたくない。

けれどそうしなければならない状況になっていることは十分にわかっている。

しかし何故この男は私にそんなことを聞いてくるのだろう。

もしかして……?

「女を切り売りして、あんな多額の借金を返済していくとは。大変なことになったな」

事情を調べているのならば、依舞稀の内情は全て把握されているということ。

ならば少しの情けは掛けてもらえるかもしれない。

一瞬でもそう思ってしまった自分を殴ってやりたい、と依舞稀は思った。

やはりここにはいられないということか。

自分が悪いとはいえ、目の前にいる副社長が鬼に見える……。

「一体何年かかるんだろうな?気が遠くなる」

そんなこと、依舞稀が一番考えていることだ。

ダブルワークの状況でも最短5年かと心が折れかかっていたというのに、ホテルをクビになって大きな収入源がなくなってしまえば、返済はさらに遠のいてしまう。

今にも崩れ落ちそうによろめいた依舞稀を見て、遥翔は獲物を狙うような視線をむけつつ、ニヤリと笑った。

「そんなお前に新たな契約を結んでやろう」

遥翔の言葉に、依舞稀は弾けるように顔を上げた。

目にした遥翔の顔は、震えるほどにイイ男だった。