遥翔の質問に答えられない依舞稀は、黙ったまま小動物のように小さく震えて遥翔を見つめた。

その怯えた目は、クラブで『触るな』と怒鳴られた時とは全く違う。

なるほど。

強い意志を持った目もよかったが、怯える表情も悪くはない。

遥翔は上がる口角を隠すように口元で手を組んだ。

どうせ依舞稀が自分の事情をペラペラ喋るとは思っていなかったし、彼女の事情など聞かなくても全て調査票に記載されているのだから問題はない。

「話せないのならそれでもいい。どうせ副業理由も身辺状況も全てこちらで調査済みだからな」

遥翔がわざと大きく息を付きながらそう言うと、依舞稀は大きな目をさらに大きくして驚き戸惑った。

「え……」

全て調査されているというのが一番の驚きだった。

規約違反者の事情など、調べるなど必要ないではないか。

わざわざ自分を呼びつけて事情聴取のような真似をする意味は何なのだろう。

依舞稀は頭の中でその理由を必死で探した。

「お前……今後どうしていくつもりだ?」

「どう……とは……?」

そんなことを聞いてどうするつもりだろう。

自分自身でもどうしていいのか、そうすればいいのか、何も分からないというのに。

会社に副業がバレてしまった以上、現状の収入を維持することなどできないだろう。

そうなればなおさらに返済は難しくなり、依舞稀はもっと追い詰められていくだろう。

真綿で首を絞められるのは、金銭面だけで充分だ。

クビ宣告をするのなら、スッパリとしてほしい。

それが依舞稀の気持ちであった。