契約結婚!一発逆転マニュアル♡

遥翔が支えていた会長の膝がガクンと落ちる。

「会長っ!」

慌てて力を込めて引き上げようとしたのだが、相手は遥翔よりもはるかに体重が重い。

支えようとした遥翔もろとも、床に倒れ込んでしまった。

「きゃあ!」

ホステスの叫び声とフロアのどよめきで、身を隠すように座っていた依舞稀も思わず振り返る。

良くは見えなかったが、誰かが倒れたのは確認できた。

立ち上がると、その姿がしっかりと確認できた。

咄嗟に依舞稀は「すみません、ちょっと」と客に一声かけると走り出した。

遥翔が身を起こし、会長を抱え起こそうと手を伸ばしたとき。

「触らないでくださいっ」

そう叫んだ依舞稀が駆け寄った。

遥翔はピタリと手を止め、依舞稀を驚いた表情で見つめたが、依舞稀はお構いなしに会長の首筋に手を当て脈を確認する。

脈はあるものの顔色は真っ青で、瞼は痙攣している。

急性アルコール中毒であろうとは思うが、それだけではない可能性もある。

「こちらの男性、持病はお持ちですか?」

遥翔とその連れに視線を移して依舞稀が尋ねると、1人の中年男性が「会長は糖尿病をお持ちです」と答えた。

「糖尿病……」

依舞稀は手早くネクタイを解き、シャツのボタンを外すと顔を横に向ける。

糖尿病患者が飲酒をすると、肝臓や膵臓などに大きく影響を与える場合がある。

下手をすれば意識障害や精神疾患を伴う場合も考えられるのだ。

何だってこんな所で飲酒してるんだ、この人は。

苛立ちを隠しながら、依舞稀は自分の知識にある対処法で救急車を待った。