契約結婚!一発逆転マニュアル♡

大手ホテルの会長と社長との会食は、全く面白味のないものではあったが、他ホテルの状況の情報量はさすがに身になるものであった。

お世辞も愛想笑いも上手ではなく、不器用な遥翔を支えているのが、八神寿弥(やがみとしや)32歳。

遥翔の優秀な専属秘書である。

整った容姿と柔らかい笑みが人を和ませる男だが、実際はかなりの腹黒だと遥翔はいつも言っていた。

キリガヤグループの中でも、遥翔の顔色を伺わずにものが言えるのは、会長である桐ケ谷誠之助と八神だけだろう。

年齢が近いのもあるが、その物怖じしない性格を遥翔はとても気に入っている。

ホステスに対して全くの無反応な遥翔に対して、八神はホステスを相手にするホストのように場を上手く納めている。

おかげでホステスたちは上機嫌で、初老の会長たちの相手をしてくれているというわけだ。

これほどまでにしっかりと周りの状況を的確に判断し、円滑に物事を進めることのできる男を、遥翔は見たことがなかった。

遥翔たちがVIPルームに入って二時間が経った頃、恰幅のいい会長の身体がユラユラと揺れ始めた。

随分と酔いが回ったようで、「悪いがそろそろお開きにさせてもらおうか」と呂律の回らない口調でそう言った。

「早くお帰りになられた方がいいですよ。かなり酔ってらっしゃるみたいですから」

遥翔は会長の脇に腕を差し入れ、徐々に立たせていき支えるようにしてVIPルームを出た。

フロアをゆっくりと進んでいき、もうすぐで出口だという時、事件は起きた。