契約結婚！一発逆転マニュアル♡

思わず身を屈めそうになったのを抑え、じわじわと入口から視線を逸らして背を向ける。

あからさまに避けてしまったら、逆に目立ってしまうかもしれない。

他のホステスたちは、依舞稀とは逆に何とか自分の客に失礼のない程度に食いついているのだから。

心臓の音がバクバクと早鐘を打ち、冷や汗が背中を伝うような感覚に襲われた。

どうしてここに……。

依舞稀の頭の中はパニックになっていた。

何百人といるスタッフの中の一人で、まだ入社して1年余り。

遥翔が依舞稀を覚えているはずはない。

落ち着くため、自分にそう言い聞かせてはみるものの、通常の従業員と違い依舞稀は入社してすぐに、両親の葬儀に出席してもらっている。

少しながら言葉も交わしたのだから、覚えられている可能性もゼロではない。

そう考えてしまったら、うまくお酒も注げなかった。

依舞稀の焦りとは逆に、遥翔は他には目もくれずにVIPルームに入って行った。

遥翔にとって、このようなクラブに来ることも珍しくはない。

その見た目のおかげで、女は皆同じ視線で遥翔を見つめる。

今までずっとそうであったのだから、もう何も気にならないし、ウンザリしていた。

実際に今こうして遥翔の隣に座っているホステスを含め、ここにいる全員が遥翔に釘付けだ。

もう遥翔にとっては、どんな女も同じ顔に見えてくるほど面倒くさい存在なのだ。

あ～帰りてぇ……。

まだ来たばかりだというのに、遥翔の頭の中はそのことでいっぱいだった。