契約結婚!一発逆転マニュアル♡

木曜日だというのに、ボックス席は既に満席となっている。

残すはカウンター席二席と、VIP席のみだ。

週末以外はあまり使うことのないVIP席だが、今日は珍しく予約が入っていた。

依舞稀には指名が入っているので同席することはないのだが、出勤時から準備に慌ただしかったため、どんな客が来るのか気になることろだ。

予約は21時と聞いているから、もうそろそろお目にかかる時間だろう。

自分を指名してくれているお客との談話を笑顔で流しながら、依舞稀は時折入り口を気にした。

そうしているうちに、ついにその時がやってくる。

六十代であろう恰幅のいい男性を中心に、四人の男性が入店してきた。

五十代の細身の男性と、同じくらいの年齢であろう背の低い男性。

二十代であろう若い眼鏡がとても似合う綺麗な顔をした男性。

その男性の隣にいた男性が……。

「え……」

高身長で足が長くスリムでお洒落なスーツをバッチリ着こなし、驚くほどの整った顔。

この男性を見るのは何度目だろうか。

まともに会話を交わしたことは一度しかなく、きっと男性が依舞稀を認識していることはないだろう。

けれど依舞稀の中では大きく自分を変えた人物として、心が折れそうなときにふと思い出す人物。

ホテルキリガヤの副社長、桐ケ谷遥翔、その人だった。