社長を引退してようやく二人の時間が取れるようになったのだから、遥翔としても思う存分好きなようにやってほしかった。

トラブルや予定が大幅に変更になったなど、何かがあれば八神から聞かされるはずだと安心していたのだ。

それに何より、依舞稀との生活があまりにも充実しすぎていて、両親のことなど思い出しもしなかったというのが正直なところである。

『おかげさまで新社婚旅行みたいで楽しい時間を過ごせたわ』

電話越しでも本当に充実していることがわかり、遥翔は今さらながら安心した。

『遥翔はどうなの?』

「どうって?」

『愛しの奥様とよ。とっしーからめちゃくちゃラブラブだって聞いてるけど』

「いい加減、八神のことをとっしーって呼ぶのやめろよ。本人は嫌でも言えないんだから」

寿弥でとっしーなんて、32にもなった大の男は呼ばれたくもないだろう。

美穂子が呼ぶたびに八神の眉がピクリとするのを、遥翔は見逃していなかった。

『なんだかんだ言って、とっしーはもうとっくに諦めてるから大丈夫よ。そんなことより、月曜日には帰ることになったからね』

「来週って……もうあと5日じゃないか」

出頭に出る時も唐突だったが、帰ってって来るときも唐突である。

『夕方には帰りつくから、夜はお嫁さん連れて家に帰ってらっしゃい。美味しい晩御飯用意しておくから』

そしてこういう計画も唐突なのであった。