依舞稀がホテルの地下駐車場に到着したのは、あれから30分ほど経ってからだった。

遥翔の車に駆け寄りたいのだが、八神の話を聞いた後ということもあり、何故だかとても恥ずかしい。

執務室の帰り際、八神はひたすら依舞稀に謝罪してくれた。

『依舞稀さんに対して本当に失礼なことをしてしまいました。しかしこれも副社長のせい……いえ、ためを思ってのことだとご理解していただきたいです』

そう言われてしまったら『とんでもないです。ありがとございます』としか言えなかった。

結果として遥翔がどれだけ自分を想ってくれているのを改めて実感し、その気恥ずかしさからなかなか足を動かしてくれない。

今まで遥翔はありとあらゆる手段で依舞稀に対して愛情表現をしてくれていた。

依舞稀も自分のできる精一杯で遥翔に伝えてきたつもりでいたのだが、それでも受け身であったことは事実だ。

愛されることに慣れ過ぎていて、自分から大きな行動をすることなく来てしまった。

夫婦であろうが何であろうが、自分の気持ちを相手に分かってもらうには、悟ってもらうのではなく自分で伝えることが一番なのだ。

依舞稀は小さく息をつくと、遥翔の車に駆け寄り助手席に滑り込んだ。

「お疲れ様」

ぎこちなく微笑んだ遥翔は、依舞稀が遅れてきた理由を知っている。

きっと今、彼は内心怯えまくっているのだろう。

「お待たせしました」

色々な意味を含め、依舞稀は遥翔の首筋に腕を伸ばし、彼をぎゅっと抱きしめた。