「あんな副社長、見たことないです」
ランチタイムに食堂で、美玖は興奮気味にそう言った。
「そうね。美玖の唖然とした顔、思わず笑っちゃいそうになったもの」
サラダにドレッシングをたっぷりとかけながら、花音は思い出し笑いを必死に堪えた。
「今までだったら考えられないよね。完全に別世界の人間だと思ってた人が部長に言いくるめられて謝罪して、バツが悪そうに社員に声かけて退散なんて」
口いっぱいに頬張った大好きな十六穀米を堪能しながらも、璃世の口元は緩んでいた。
「私はそれどころじゃなくて、遥翔さんをよく観察できなかったから……」
心底残念であるというように、依舞稀は眉を寄せて溜め息をついた。
「依舞稀はいいのよ。もう副社長のレア顔なんて数えきれないほど見てるでしょう?」
璃世の視線に依舞稀の脳裏には、遥翔のあんな顔やこんな顔が浮かんでは消えていく。
「なんか想像したくないですね……」
「璃世が余計なこと言うから……」
「違う……。依舞稀が余計な事思い出すから……」
そんな言われように、「なんかごめん……」と依舞稀は肩をすぼめた。
会議が終わってデスクに戻ってきても、一区切りついて給湯室でコーヒーを淹れた時も、そして今、こうやってランチを楽しんでいるときも。
この三人は依舞稀の過去について一度も触れることはない。
確実に依舞稀の関するメールを読んだであろうに。
本当ならば聞きたいことは山ほどあるはずだろうに。
一片の変化も感じさせず依舞稀と接している。
依舞稀にとってはそれが、嬉しくて有難くて、心苦しかった。
ランチタイムに食堂で、美玖は興奮気味にそう言った。
「そうね。美玖の唖然とした顔、思わず笑っちゃいそうになったもの」
サラダにドレッシングをたっぷりとかけながら、花音は思い出し笑いを必死に堪えた。
「今までだったら考えられないよね。完全に別世界の人間だと思ってた人が部長に言いくるめられて謝罪して、バツが悪そうに社員に声かけて退散なんて」
口いっぱいに頬張った大好きな十六穀米を堪能しながらも、璃世の口元は緩んでいた。
「私はそれどころじゃなくて、遥翔さんをよく観察できなかったから……」
心底残念であるというように、依舞稀は眉を寄せて溜め息をついた。
「依舞稀はいいのよ。もう副社長のレア顔なんて数えきれないほど見てるでしょう?」
璃世の視線に依舞稀の脳裏には、遥翔のあんな顔やこんな顔が浮かんでは消えていく。
「なんか想像したくないですね……」
「璃世が余計なこと言うから……」
「違う……。依舞稀が余計な事思い出すから……」
そんな言われように、「なんかごめん……」と依舞稀は肩をすぼめた。
会議が終わってデスクに戻ってきても、一区切りついて給湯室でコーヒーを淹れた時も、そして今、こうやってランチを楽しんでいるときも。
この三人は依舞稀の過去について一度も触れることはない。
確実に依舞稀の関するメールを読んだであろうに。
本当ならば聞きたいことは山ほどあるはずだろうに。
一片の変化も感じさせず依舞稀と接している。
依舞稀にとってはそれが、嬉しくて有難くて、心苦しかった。

