契約結婚!一発逆転マニュアル♡

辰巳の当初の目的は、自分が何もできない小娘だと思っていた依舞稀によって、見事に打ち砕かれた。

自分の娘がくれた情報を餌に下剋上を試みたが、これもまた失敗に終わった。

よりにもよって彩葉の馬鹿げた行動に足を掬われるとは。

しかもそれを小娘に戒められるとは、なんたる屈辱であろうか。

このまま我を通してしまっても、自分にとって一切のメリットはない。

ここは引き下がった方が得策であろう。

辰巳はそう判断した。

「おが……桐ケ谷くんが自分の過ちを認めるのであれば、大事にすることもないかもしれないな」

掌返しと捉えられると腹ただしいが、幸いなことに依舞稀からの謝罪もあった。

これを理由に違反者を寛容に扱うという大義名分ができたのだ。

「今後はこのようなことのないように十分注意して行動したまえ。きみの行動が、いつ副社長の首を絞めるかわからないんだからね」

自分の娘のことは簡単に棚に上げて、辰巳は依舞稀に向かって偉そうにそう言った。

さすがにそれには依舞稀も癪に障ったのだろう。

「お互いに足元を掬われないように気を付けなければなりませんね。辰巳専務もお嬢さんにこれ以上私に関わらないようにお話しください。桐ケ谷の人間として、このホテルから犯罪者を出したくはないので」

切なげにそう訴えかけたが、実際はこんなことくらいで犯罪者になることなど有り得るはずもなく、ストーカー事態が存在しないのだから訴えさえも起こせない。

しかしあくまでもこちらが優位な立場で話を終わらせたいのだ。

案の定辰巳は先ほどの偉そうな態度から打って変わって、苦虫を噛み潰したような表情で「これで失礼します」と遥翔だけに頭を下げて副社長室を出て行った。

……勝った……。

そんな思いで依舞稀は大きく安堵の溜め息を漏らしたのだった。