「遥翔さんのことを思うあまり。ポッと出てきた私が憎らしくて仕方がないんでしょうけど」

辰巳本人も遥翔に媚を売り、彩葉を当てがおうとしていたことを考えると、彩葉の遥翔に対する執着は相当なものであっただろう。

そう考えれば今回の行動も頷ける部分はあるのだが。

理解は全くできない。

「私を陥れたところで、自分が私になれるわけでもないというのに」

冷静に考えればわかること。

取り巻きではなく本当の友人や、諭してくれる家族がいれば、彼女も行動を改める事ができたはずなのだ。

「ある意味、可哀想な人間なんでしょうね。そんなことすら学べる環境になかったということなんですから」

父親が諭すどころか、これをチャンスとばかりに意気揚々とここに乗り込んできたことが、彼女の環境の悪さを意味している。

しかしそれもまた彼女の人生であって、配慮してやる必要はない。

依舞稀は挑むような視線を辰巳に送った。

だが辰巳はそれを深く考えられるような男ではない。

「偉そうなことを言ってるが、自分のことを棚に上げ過ぎじゃないのかね？」

決して自分の非は認めず、相手のことは徹底的に追い込む。

それが辰巳という人間なのだ。

「確かに娘のしたことは褒められたものではないかもしれない。だが最初に規律を乱したのは緒方くんではないかな？副業を禁止しているにもかかわらず、借金返済のために水商売を選ぶとは。人のことを憐れむ前に、自分の浅はかな行動を反省すべきではないのかね」

言葉だけを聞けば至極まっとうな意見だ。

それでも彼はなにもわかってはいない。