遥翔の身分も明かしてあるので、さすがに依舞稀のことが漏れるとは考えにくい。

最悪のことは回避できるであろうが、今一度店側に圧力をかける必要がありそうだ。

「八神。例の店に依舞稀の情報は決して漏らすなと、もう一度念を押しておいてくれ。依舞稀の過去を探られて、店にまで行きつかれてしまっては面倒だ」

「かしこまりました」

「このことは依舞稀にも内密に頼む。自分の身辺を探られているなんて、気持ちのいいものではないからな」

「心得ております」

そう言って八神は副社長室から出て行った。

いつも正式な業務以外のことを押し付けてしまって、八神には申し訳ないと思っている。

しかし遥翔が直接動けないことも多々ある。

副社長としての業務も、かなり忙しい。

依舞稀の時間に合わせて仕事をしているということもあり、日中に外出すればかなりの事務仕事が溜まる。

それを処理するのにも、かなりの労力が費やされるのだ。

今までならば残業しようが副社長室で一夜を明かそうが、何とも思わなかった。

しかし依舞稀と結婚してからの遥翔は、とにかく家に帰りたい。

一分一秒でも早く依舞稀を迎えに行き、家出の時間を大切にしたいのだ。

そのためにこうやって膨大な仕事量を必死になってこなしているわけだ。

それが今の遥翔にとって一番大切なことであった。

それを少しでも揺るがすものは、どんなことであろうとも放置するわけにはいかない。

危険な芽は早急に摘まねばならないのだ。