いつの間にか,足は動いていた。

真っ暗な世界で,綺麗な鈴のように澄んだ音を頼りに壁伝いに進んでいく。

どんな人がどんなように弾いたら,この音が出せるのだろう。

どうすれば,綺麗で純粋な音を出せるのだろう。

「はぁはぁはぁ…」

自分の荒い息の音が,静かな学校に響く。

途中で,外から運動部の掛け声が響いていたけれど,そんなの私の耳には入ってなかった。

暗闇の中で聞こえるのは,バイオリンの音だけ。

壁伝いに段々,ゆっくりと登っていく。

見えないのは,怖い。
わからないのは,怖い。

でもこの音を,もっと近くで聞いてみたい!

そうしたら,私の罪は少しだけ薄れていくようで,自分を止められなかった。