「林さんのお弁当 お母さんが 作ってくれるんでしょう。やっぱり お嬢様だよ。」

母は毎朝、啓子のお弁当を 作ってくれる。
 

「あっ うち お父さんも お弁当だから。ついでなんです。」

啓子は慌てて言う。


吉野さんも岡部さんも 毎日 コンビニで パンやおにぎりを 買ってきていた。
 

「うちの親は 何もしてくれない分 干渉されないから。それはそれで いいけどね。」

と吉野さんは笑う。


頷く岡部さんに、
 

「うちのお母さん いまだに 何時に帰ってくるの とか うるさいです。」

と啓子は 苦笑する。


兄弟のいない啓子は いつも 両親に見守られていた。


すべてを 先回りして 与えられる生活。


自己主張さえ する必要がなかった。
 

「そのくらい 我慢しないと。色々 やってもらっているんだから。」

と岡部さんは笑う。
 

「少しずつ、親離れします。」

啓子がポツンと言うと、
 

「彼氏作りなよ。そうすれば 自然と 親離れできるから。」


と吉野さんに言われて、
 

「えー。無理です。」

と啓子は頬を染める。


その時 啓子の心には 聡の顔が 浮かんでいた。