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トイレで、
鏡越しに私をチラチラ見てくる女がいた。
ハンカチで手を拭きながら
私はその視線に自ら目を合わせた。
怯んだ瞳が視線から外れる。
「さっきから何?誰?」
「いえ…あの…なんでも」
名札をちらりと見る。
名字は光が反射して見えないけど
”華”という名前だけやけに視界に入り込んできた。
…なるほどね。
「映画、行くんでしょ」
カマをかけてみた。
ハナちゃんがパッと顔を上げる。
「日高くんが言ったの?」
「そう。私に」
ハナちゃんは、グッと言葉を詰まらせて
その後私の機嫌を伺うように口を開いた。
「……あの、私、行ってもいいのかな」


