あいつの悪役ヒロイン




飛び出して何メートルか先、あたしは後悔した。



朝のホームルームが始まるチャイムが廊下に響いたからだ。




「あー、もう、何やってるんだろ」


先生には後からひどく怒られるのは目に見えているし
日高とは気まずくなるに決まっているし
クラスメイトからもさらに距離を置かれるに違いないし

何もかもうまくいかない。


屋上へ続く階段の踊り場で、
あたしはへたり込んだ。

あいにく屋上の扉は開いていない。

そんな都合のいい状況は、
脇役のあたしに用意されてなどいないのだ。










「あ、見つけた」






静寂な空間に、笑う声が響いたのは
あたしがここへ座り込んでから そこまで時間が過ぎていない時のことだった。



男の声だったから、一瞬日高だと思った。

けれど顔をあげて視界の先にいたのは
先ほど日高の横でへらりと笑っていた一宮と言う男だった。