季節は春。この学校に入って2回目の春が来た。
―――新しい自分になりたい。
そう思って入学したのが去年の春。
友達も、それなりに出来たし、部活動もそれなりに頑張っている。
―――私は新しい自分になれたのかな?
もっと明るい自分になりたい。
もっと可愛い自分になりたい。
1年前はもっと色んな事を考えてたはずなのに。
―――そう、もっと新しい世界を………
「志津! ちょっと志津ってば! 聞いてんの!?」
夏美ちゃんの声ではっとする。
「ご、ごめんね! えっと………、何の話だっけ」
「もう………、またいつもの『一人の世界』?」
「えっ?」
机に頬杖をつきながら、夏美ちゃんは私をジロリとみる。
「志津ってさあ、突然ぼーっとすることあるじゃん? 昔から。それを私は『一人の世界』と名付けてみた!」
「そのネーミングセンス………、いまいちな気がする」
「まあまあ? 名前はいいとして! さっきの話しなんだけど」
夏美ちゃんとは入学した時に席が近かったのがきっかけで友達になった。
私とはちがって、同じクラスの女の子とはだいたい仲が良くて、いつも元気一杯だ。
そんなに口数が多くない私は、もっぱら夏美ちゃんの話の聞き役。
私と一緒にいると『なんか癒される』らしい。
「この間、オープンしたカフェにいつ行くって話し! ほら、見てよ。この生クリームの感じ………、間違いないって! で、いつにする?」
目の前に近づいてきた雑誌の1ページはカフェの紹介ページで『新規オープン! 北海道産の生クリームを贅沢に使用したパンケーキは絶品!』とでかでかと書かれている。
「善は急げって言うし、今週末の日曜日で、どう? その後、ちょっとショッピング行こうよ! コスメの新作もチェックしたいし」
「あっ! 『rippy』の春の限定コスメだよね!? 私もちょっと見たいかも」
「オッケー。じゃあ、日曜ってことで!」
授業開始のチャイムが鳴り、夏美ちゃんは雑誌を持って、席に戻っていった。
私も次の授業の準備をしようと机から教科書を取り出そうとすると―――
「………あれ?」
机の左の隅っこが、何か汚れているような………。
「なんだろう、これ………。文字?」
すごく小さいので、机に顔を寄せると、くっきりと―――
『わたしの ともだち に なってください』
「えっ………?」
私と? 友達になりたいってこと? ひょっとして悪戯?
「誰が………、友達って………」
そっと教室を見回す。
私が机の文字に気づいた様子を見ている人は誰もいないみたい。
ということは、このクラスの人じゃないって考えていいかもしれない。
「………消しちゃおう」
丁寧に消しゴムで消してから、私は教科書を取り出す。
机に教科書とノートを置きながら、先ほど消した場所を見つめる。
―――誰だろう。
―――私へのメッセージ。書いた人はどんな人?
悪戯とは思いつつも、私は心の中で、メッセージの差出人は誰なのかをずっと考えていた。