桜も散り、梅雨に入った頃、おみつが、女の子達を連れて来た。
あたしは、お風呂に行っていて、おみつに会うことが、出来なかった。
おせんは、二人を自分の部屋に、連れて入った。
「まず、お前達の名前から聞こうか。
じゃあ、お前から。」
おせんが、指を指したのは、自分から見て、右側の子だった。
「こゆき…。」
こゆきは、二重のたれ目で、綺麗な顔立ちだった。
「こゆきか…。
お前は?」
「おきく…。」
おきくは、一重のくり目で、幼く見えた。
「おきくか…。
こゆきとおきくか…。
名前を決めるより、ここのことを、話そうかねぇ。」
おせんは、見世の事、名前の事、禿の事、名前の事、若い衆の事、楼主の事、太夫の事、新造の事…。
吉原と見世の事を、全て、話した。
「じゃあ、名前を決めようかねぇ。
こゆきは、いずみ。
おきくは、いろは。
ちゃんと、覚えるんだよ?!!」
二人は、返事をした。
そして、二人を残し、あたしの部屋に来た。
「かがり。
居るかい?」
「居ます。」
「わたしの部屋まで、来てくれるかい?」
「はい。
分かりました。」
あたしは、おせんの部屋に行った。
「失礼します。
かがりです。
お呼びでしょうか?」
「かがり、入りな。」
「はい。」
あたしは、部屋の中に入った。
「かがり、今日入った子達だよ。
いずみといろはだ。」
「お初にお目にかかります。
近江屋で、引っ込み禿をさせて頂いております、かがりと申します。
以後お見知りおきをお願いします。」
あたしは、三つ指ついて、挨拶した。
二人は、驚いていた。
「これが、引っ込み禿だよ。
お前達は、ただの禿だ。
後で、禿に挨拶するよ。
まず、ここで、一番偉い、太夫に会わせてやる。
ちゃんと、挨拶するんだよ?
かがりは、部屋に戻りな。」
あたしは、返事をして、部屋に戻った。
「(そいえば、歳聞いてない…。)
(朝ご飯の時でいいか。)」
あたしは、部屋に戻り、外を見ていた。
その頃、二人は、ゆきのや、水連、ひさのに挨拶し、次に、みつば、つつじ、みずは、かずは、ゆいなに挨拶した。
そして、禿達に挨拶し、そのまま、禿の仕事である、朝ご飯の準備にとりかかった。
二人は、もみじに連れられて、あたしの部屋に来た。
「かがりちゃん。
朝ご飯だよー。」
「分かったぁ。
ありがとう、もみじちゃん。」
あたしは、鍵を開け、外に出ると、いずみといろはも居た。
「二人も来てくれたんだ。
ありがとう。」
あたしは、外から鍵をかけた。
それを見て、いずみが聞いてきた。
「引っ込み禿は、自分の部屋もらえて、鍵も付けてもらえるの?」
「あたしは、事情があって、特別なの。
普通は、鍵ないから。」
そう言って、食堂に行った。
「そう言えば、いずみちゃんは、何歳?」
「あたしは、六歳。
いろはちゃんは?」
「わたしも、六歳。」
あたしは、自分より、年下が入ったのが、嬉しかった。