ある朝、あたしは、家の外で、鞠付きをしていた。
そんなあたしに、1人の女の人が話しかけてきた。
「もしかして、おあさちゃんかい?」
あたしは、答えて良いのか分からず、黙っていた。
「(警戒心の強い子だね…。)
(でも、かなりの上玉…。)
(予想以上だよ…。)
(これは、高く売れる!!)」
「(誰だろ…。)
(なんで、あたしの名前を、知ってるんだろ…。)」
「あたいはね、おみつと言って、おとっつぁんの知り合いだよ。」
「とと様の…?」
「ああ、そうだよ。
おとっつぁんは、中かい?」
あたしは、頷いた。
おみつは、家の中に入って行った。
おみつが入ってから、すぐに、とと様に呼ばれた。
あたしは、家に戻った。
「おあさ。
お前に、頼みたいことがある。
このおみつさんと一緒に、お使いに行って欲しんだ。」
「お使い…?」
「そうだ。
なぁに、良い子にしていたら、すぐに、終わる、お使いだ。
行ってくれるよな?」
あたしは、元気に「はい!」と返事した。
「おあさは、良い子だ…。
本当に良い子だ…。」
とと様は、泣き出した。
母様も泣いていた。
あたしは、何故、泣いてるのか分からなかった。
あたしは、おみつと外に出た。
母様は、裸足で、あたしを追いかけてきた。
「おあさー!!
元気でねー!!
こんな親でごめんねー!!」
母様は、そう言って、泣き崩れた。
とと様は、母様に寄り添った。
あたしは、母様の様子に、違和感を感じたが、おみつに、手を引かれて行った。
家を出て、何日も、おみつと歩いた。
そして、辿り着いたのは、大きな門のある所だった。
あたしとおみつは、大きな門をくぐった。
おみつは、大きな門の近くにある、お店の人と、何か話していた。
あたしは、その側にある、桜を見ていた。
店の人との話しが終わると、今度は、また、手を引かれ、奥へと進んで行った。
どこの店も、開いてる雰囲気じゃないし、赤い格子があって、何の店か、分からなかった。
そんな、店を何件か通り過ぎ、奥の店の前で、立ち止まった。
「おせんさん、居るかい?」
おみつは、店の奥に向かって、叫んだ。
すると、お店の奥から、女の人が、出てきた。
「何だい、おみつじゃないか。
遅かったね。」
「すまないねー…。
遠かったもんでね…。」
「で、その子が、例の子かい?」
「そうだよ。
すごい、上玉だよ。」
あたしは、おみつとおせんが、話している間、店の中を見えるとこだけ見た。
だけど、何も置いてなくて、何屋さんか、分からなかった。
そんなあたしを見て、おせんは、驚いていた。
「これは…。
かなりの上玉だね…!」
「(上玉…?)」
あたしは、「上玉」の意味が、分からなかった。
おせんは、あたしを品定めするような、目で見ていた。
おみつは、おせんに言った。
「じゃあ、お金をもらおうか。」
「分かったよ。
いくらだい?」
「十四両。」
「十四?!
いつもの倍じゃないか!」
「これだけの上玉だからね。」
「仕方ないね…。」
おせんは、手持ち金庫を持ってきた。
その中から、おせんは、十四両を、おみつに渡した。
「毎度。」
おみつは、もらった金を、懐に入れた。
「いいかい?
お使いは、ここで頑張ることだよ。
後のことは、このおせんさんに聞きな。」
「おみつさん、どこか行くの?」
「あたいも忙しいんだよ。
でも、また会えるから。
頑張りな。」
「うん。
分かった。」
あたしは、涙目で、おみつを見た。
おみつは、後ろ髪を引かれる思いで、店を後にした。
おせんは、あたしを店にあげた。
「ここはねぇ、吉原と言って、男の人からお金をもらって、一緒に遊ぶとこだよ。
男と遊ぶ女を、女郎もしくは遊女と言う。
ここに居るのは、ほとんどが、女郎だ。
女郎が居る店を見るの見に、世界の世で、見世(みせ)と呼ぶ。
この吉原にあるのは、ほとんどが、見世だよ。
見世にはね、女郎以外の女も居る。
その一つが、お前くらいの子がなる、禿(かむろ)で、十四からが、新造(しんぞう)と言う。
新造は、三つあって、一つが、引っ込み新造。
二つ目が、振袖新造。
三つ目が、留袖新造。
一番位が良いのが、引っ込み新造。
二番目が、振袖新造。
三番目が、留袖新造。
お前がなるのは、引っ込み禿。
その後になるのが、引っ込み新造だ。
引っ込み禿は、普通の禿より、優遇される。
それは、引っ込み禿の方が、将来、色んな男の人と遊ぶと、思われてるからだ。
だから、引っ込み新造になって、太夫になってもらう。
禿と引っ込み禿の違いは、禿は、姉女郎に付いて、姉女郎の世話をし、代わりに、禿にかかる金を、全て姉女郎が払うことになる。
それと違って、引っ込み禿は、全ての金を、楼主と言って、この店の主人(あるじ)が払い、引っ込み禿の借金になる。
引っ込み新造も同じだ。
それから、吉原で禁止されてることを話そう。
まずは、ここに来るときに、大きな門を通っただろ?
その門を勝手に、通っては、いけない。
勝手に通って逃げることを足抜きと言う。
次に、好きになった人と死んでは、いけない。
好きな人とじゃなくても、勝手に死んではいけない。
後、見世には、楼主以外に、若い衆と呼ばれる、男たちが居る。
その若い衆と恋してはいけない。
それが分かったときには、男は、殺されるからね。
若い衆の中には、若くないものも居る。
その人たちも若い衆と呼ぶんだよ。
じゃあ、楼主に会って、挨拶して、姉女郎に挨拶して、若い衆と禿のも挨拶して、見世の中を案内しようかね。」