拓斗と目が合った瞬間、拓斗の瞳が潤んでいて涙を誘うから。
つられて泣いてしまいそうな顔を見られたくなくて、ギュッと瞼を閉じる。
そんな私の唇に、拓斗の唇が静かに重ねられた。
「……拓斗、みんな見てる。恥ずかしい……」
「恥ずかしくなんかないよ。俺には青葉しか見えてないから」
拓斗のキスとその言葉に、魔法をかけられてしまったのだろうか。
周囲の音が聞こえなくなり、もう拓斗しか見えなくなって、拓斗の優しい声しか聞こえない……。
「よかった、誰かのものになっていなくて。青葉、俺の傍にいて」
心地良く落ち着いた声が、優しく耳元で囁かれ。
見上げると、拓斗の瞳には私だけが映っていた。
強がっている私じゃなく、あの頃の私が居るように見える。
拓斗だけを真っ直ぐに想っていた、私が。
願掛けしていたという指輪を外した拓斗は、そっと私の薬指にその指輪をはめた。
「これ…?」
「もしも再会できたら。もう一度、気持ちが通じ合えたら。その時は、青葉に贈ろうって決めてたんだ」
「サイズ、ぴったり。知ってたの?」
拓斗は「そりゃ、元彼ですから」なんて、得意気に笑っていたけれど。
ふと思い出した。
一度、ペアリングが欲しくて渋る拓斗を連れて店に足を運んだ時、お互いサイズだけは測ったんだっけ。
興味なさそうにしてたくせに、覚えていてくれたんだ?
「青葉。今度は何があっても、絶対に手離さないから」
「拓斗」
こんな雑踏の中で再会できた私達は。
きっと、結ばれる運命なんだと素直に思える。
私が消した恋の炎は、拓斗が再び火をつけてくれたのだから……。
【完】



