「じゃあ、今日はこのキャラクターだ。主人公より年上で大人っぽいイメージだな。動きは機敏で武器は両手に短剣だ」
 「………千絃もモーションキャプターだったのね」


 仕事がスタートし、千絃と話をするタイミングで、響は先ほどの話題を問いかけてみた。すると、千絃は驚きもせずに話をしてくれる。


 「なんだ。聞いたのか。まぁ、剣道経験者は俺だけだったからな」
 「………そんなの聞いてなかった」
 「殺陣の時は一緒にやるはずだからな………まぁ、覚悟しておけ?」
 「私はプロだったんだよ。負けるわけわ」
 「わからないだろ?当時は俺の方が強かっただろ」
 「………千絃なんかに負けるはずないじゃないっ!!」



 当時の剣道の事を思い出すやり取りに、響の感情は一瞬で怒りの色に染まってしまった。

 思わず頭に血がのぼってしまい、大きな声を出してしまった。広い部屋に響の声が響き渡り、他のスタッフ達も驚いて2人を見つめていた。
 響はハッとして、千絃を見ると彼を目を大きくしてこちらを見ていた。咄嗟に何か言わないといけないと口を開いたけれど、何を言えばいいのかわからず、言葉は発せられなかった。
 そんな響の様子を見ていた千絃は、顔色を曇らせ苦笑すると「そうだな……」と呟いた。




 「俺は高校で辞めたんだ。………ひびに勝てるわけなかったな」