千絃が響が居る会議室に入ってきたのはそれから1時間もかからない頃だった。
 千絃は「すみません……お待たせしました」と、仕事の相手のような口調で謝った。関も同席していたので当たり前だが、それがとても新鮮だった。



 「納得いくものは出来なかな、月城」
 「はい、おかげさまで」


 そう言って、手に持っていたノートパソコンを開いて操作を始めた。そして、すぐに千絃の前にパソコンを置いてくれた。



 「あまり長い動画ではないですが、私たちが作った現在の最高傑作です。響さんの魅力を最大限に使っていると自負しています」



 そう言って満足げに微笑んだ千絃は、動画の再生ボタンを押した。


 すると、夜の森が映し出された。けれど、一角に明かりが灯っている場所があった。そこがアップになると木で作られた平舞台だ。周りには松明の炎が明かりの正体だった。
 その舞台の真ん中に、黒髪が綺麗な女の子が立っていた。長い髪は風に揺れ、彼女が着ている少し変わった和装はどこか巫女のようだった。とても綺麗なのに、手にしているのは長細い刀だった。顔がアップになると、真っ赤な唇が妖艶に光っていた。

 そして、どこからともなく聞いたことがある音楽が流れた。響が剣舞を踊った音楽の変わりに動画で流れたものだ。

 その女性はどこか冷たい表情のまま剣舞を舞う。それは、響が踊ったものと全く同じだった。

 神秘的な雰囲気と音楽、綺麗なCGの映像。異世界だとわかっているが、こんな世界がどこかにあるのではないかと思わせてくれるほどリアルなものだった。
 響はその動画を見ている間は、声を発するのを忘れるほどに見入ってしまった。

 それほどに、千絃達がが作り上げた物は、響の心を揺さぶった。


 そして、少しずつ気持ちの変化が起こっている事に響自身も気づいてしまった。