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 「はぁー…………」


 響を家まで送り、すぐに会社に戻った千絃だったが、すぐに仕事には戻れずに駐車場に停めた車の中で大きくため息をついてしまった。

 あいつは、良くも悪くも昔と変わっていない。だからこそ、昔と同じように話せるし、戸惑う事もある。


 「何やってんだ………俺は………」


 そう一人呟いて髪をかきあげた後、ハンドルに頭を乗せる。すると、視界の端に見えたものがあった。
 自分用のブラックコーヒーの缶と、残されたジャスミンティーのペットボトルだった。
 千絃がそれを渡すと、響はとても嬉しそうに受け取った。それが好きだったのもあると思われるが、別の意味があると千絃は気づいていた。
 だからこそ、千絃も妙に心が動かされたはずだった。
 なのに………何なんだ?と、問い詰めたかった。けれど、彼女とは時間も距離も空きすぎていたから仕方がない。そう思ってしまう。



 「それにに引き換え、俺はきらわれているな……」



 自分で発した言葉なのに、自分で辛くなってしまい、また大きくため息をこぼした。



 けれど、今から仕事だ。

 しかも、あいつが楽しみにしているものだ。
 やるしかないな、そう思い、千絃は残りのブラックコーヒーを勢いよく飲み干して、仕事場へと急いだのだった。