曲が終わると、響は全身で呼吸をし、少し汗をかいてしまっていた。舞いというものは体力を使うものだった。
 その場で、息を整えていると、彼がこちらに向かって歩いてくる。
 彼の言葉に誘われて踊ったわけだが、やはり少し恥ずかしい。練習を重ねていた時期に比べればかなり下手だったはずだ。それに、渋々受けた話なのに、かなり楽しんでしまっていた。そんな気持ちが重なり、響は彼の顔を直視出来なかった。


 「ひび」
 「な、何?舞は下手だったとしても文句は言わないで………」
 「綺麗だった」
 「…………え」


 予想外の言葉に、逸らしていた視線を彼に向けてしまう。
 千絃は昔と変わらない、優しい笑みを浮かべていた。あの意地悪で悪巧みをしているようなものではなく、心から嬉しそうにしている。そんな笑顔だった。


 「予想以上だ。昔やった舞なのによく覚えてたな。しかも、昔より凛とした雰囲気がいいな」
 「そ、そうかな………」
 「これなら、仕事も任せられそうだ」


 モーションキャプターの仕事は、きっと楽しいだろう。響自身も楽しく行う事が出来たし、舞だけではなく剣技ではどんなことをするのだろう。そんな事さえ想像してしまっていた。
 だからこそ、彼の言葉は嬉しいはずだった。

 けれど、千絃の返事に何故が胸が痛んでしまった。
 仕事としてしか、必要とされていない。約束を守ってくれないぐらいだから、自分の仕事でプラスになるから誘われた。


 けれが、当たり前であり普通の事だというのに、モヤモヤしてしまった。



 「後は会社に確認とってまた連絡する。昔も番号変わってないだろ?」
 「………うん」
 「それまで今回の仕事、考えてみて。待遇はいいはずだから」


 響が悩んでいると感づいたのだろう。
 今すぐに返事を求める事はなく、この日はそこで終了した。帰りは自宅まで送ってもらい、響は帰宅した。