「すごいですね、響さん!さすがですっ!」
 「さ、斉賀さん?」


 後ろでこっそりと聞いていた斉賀が、2人がいなくなった後に勢いよく声を掛けてきた。自分の事のように興奮しているようだ。


 「すごいですよ!和歌さんは役者には大人気な脚本を書いてくれるんですよ。すごく面白いし、人気もある。和歌さんの舞台に出て爆発的に人気になった演者は多いんですよ。響さんは前から知名度は高いですが、更に飛躍しちゃいますねー!」
 「………そんなすごい人が、何で素人の私を選ぶんだろう。もっとすごい人なら沢山いるはずなのに……。どうしようかな……」
 「え、もしかして迷ってるんですか?」
 「んー………」
 「勿体ないですっ!!」


 斉賀のように喜べないのは、きっと自分自身に自信がないからだろう。どんなに周りに褒められても、素直に受け取れないのは経験の少なさと実績がないからだと響もわかっていた。では、和歌の仕事を受け、経験を積んで、実績を上げていけばいいのだろうか。
 その選択を選んだ自分を想像してようとしても、頭の中に浮かんでこないのだ。
 それに、関がアドバイスをくれた「本当にしたいと思った事」とは何なのか。
 それを言われたときに、響はドキッとしてしまった。

 私は本当は何がしたいのか決めきれてない。

 
 自分が考えもしていなかった大切な事を、関や和歌にはそれに気づかれているのではないのか。そう感じてしまったのだ。


 「よーく考えた方がいいですよー!こんなチャンスはなかなかないと思います!」
 「………うん。少し考えてみますね」


 斉賀や周りのスタッフが仕事を受けることを期待している中、響は曖昧な気持ちのままに返事をした。