「んー今のところは別に。ここ水きれいだし食いもんもちゃんとあるし、特に不便はないから」
「ひとりでさみしくならない?」
「はは、小さい子どもじゃあるまいし」
わたしの心配をよそに、大丈夫だよ、と彼はあっけらかんと言ってのける。
「…….人魚って結構たくましいんだね」
「そう? 人間だって大人になれば親元離れて一人立ちするだろ。それと同じ」
はい行くよ、と七瀬に片手で肩を抱かれ、ふたりで海面に仰向けになった。
その体勢で彼が尾びれをひらひらと動かすと、体がゆっくりと岩場から離れていく。
……今度はちゃんと支えていてくれるだろうか。
どきどきしながら、わたしもその尾びれに倣って小さく足を動かし始めた。
「……それに俺、ここに来てみたかったんだよ」
「この海に?」
「この海っていうか、この岩」
海面を少しずつ進みながら、七瀬は視線で岬からなだらかな傾斜で伸びる岸壁を示す。
「この岩さ、俺らの間じゃ『星降る岩』って呼ばれてんの。光ってるの見たことあるだろ?」
……ある。二度だけ。
一度目は10年前に貝殻探しをしていた時。
二度目は、夏休みの初めに七瀬と人魚姫探しをしていた時。


