青の果てへと泳ぐきみへ

 


「力抜いて」

「はい……」

「手ぇ離すよ」

「えっだめ!! まだだめ!!」

肩まで海水に浸かるや否や、するりと私の手から離れていこうとする七瀬の腕に、咄嗟にしがみつく。

……彫刻みたいにきれいな顔にニヤニヤとひとの悪い笑みを浮かべるワカメ野郎の、なんて楽しそうなこと。

こういうところは人の時も人魚に戻っても、本当にこれっぽっちも変わらない。


「……そういう意地悪する人魚はモテないよ」

「いーよモテなくて。この辺人魚俺しかいないし」

わたしの嫌味なんて彼に効くわけもなく、いつもの調子で簡単にあしらわれる。

……でもやっぱり、そうなんだ。

この岬には、この海には、人魚は彼ひとり。
家族も仲間もいない。
人間の時は、家族はいなくても学校へ行けば周りにはそれなりに人がいて賑やかだったけれど。

人魚に戻った七瀬は、今どんな気持ちで過ごしているのだろう。


「……七瀬は、故郷の海に帰りたいって思わないの?」

聞くと、彼はガラス玉のような目をきょとんとさせた。