――七瀬の正体を知った夏休みの初めから、七瀬はわたしの高校の同級生ではなく、この町の海を住処にする人魚になった。
彼はもう人の姿には戻れないという。
家の急な都合でこの町から離れた学校へ転校することになった、ということにしたらしい。
一緒に暮らしていたおばあちゃんは遠い親戚でも何でもなく、ただ“彼らみたいなひと”に信仰のある人で、事情を知って親切にしてくれたのだとか。
七瀬が学校にいないのは、まだ変な感じがするけれど。
ひとつだけ安心したのは、彼がどこかへいなくなってしまったりしなかったこと。
おとぎ話の人魚姫みたいに泡になって消えたりせず、こうしてわたしが会いに来ると、岬に顔を出してくれること。
もちろん、二人だけの秘密だ。
「ゆっくりな」
「う、……うん」
岩場を下って七瀬の元まで辿り着き、彼に手を握られながらゆっくりと海水に体を浸していく。
海水は普通の水より比重が大きく、コツさえ掴めばプールより楽に浮いていられる、というのが七瀬コーチの教え。
でも体が強張ってしまって、なかなか上手に浮くことができない。


