「あっ、ちょっと」 プリントを取り返そうととっさに手を伸ばす。 樹理はそれを交わしながら、私の方に身を乗り出して、じっと私の目を覗き込む。 「いい?林野健登は、俳優なの。現実にはいないから、あんな人」 迫真の表情でそんなことを言ってくる。 「わかんないじゃーん。林野健登さんに似てる人いるかもしれないもん」 樹理の視線から逃れるようにそっぽを向きながら反論してみる。