--------あれは、そう。8歳のとき。
--------あの日のことは、今でも覚えている。
泣き叫ぶ人々の声。
炎に飲み込まれる建物。
満天の星空の下、
私の住んでいた村はあの日、
隣国との領土争いに巻き込まれ、
地獄と化した。
馬に乗った兵隊たちは
村の中を駆け回り、
槍や剣を振り回し
村人を次々と殺していった。
辺りは一面血と肉の海。
私は運良く助かったが、
両親と3人の兄弟たちは、
皆敵の兵隊に殺された。
私は泣いた。
何日も泣いた。
家族を亡くした悲しみと、
あの兵隊たちへの憎悪で、
心がはち切れそうだった。
家族の葬儀を終えた後、
近くの森で一人たそがれていた時、
どこからともなく"あの声"が聞こえた。
『キミは、何を望んでいるんだい?』
声の主の姿は見えない。
『もし、望みがあるなら、おいで。
この森の奥の巨大樹へ…………』
私は声のする森の奥へ、
夢中で駆け出した。
すると、確かに声の言うとおり、
巨大樹がそこに佇んでいた。
「ねえ、あなたは誰?
何者なの?
もしかして、森の精霊?」
私は巨大樹に向かって尋ねた。
『私は天使。
人間の望みを叶える天使』
そう言うと天使は、
巨大樹の中から、光となって、
私の前に姿を現した。
その形はみるみるうちに、
私と同い年ぐらいの
人間の少年へ変わっていった。
「ねえ、どうして私をここへ呼んだの?」
「キミを、ずっと遠くから見ていたから」
私はふと、いつか読んだ絵本のことを
思い出した。
この王国に伝わるおとぎ話。
悲しいことや、苦しいことがあった
子どもたちの前に現れて、
どんな望みも叶えてくれる天使のお話。
「あなたは、もしかして、
この国に伝わるおとぎ話の天使?」
「さあね。おとぎ話のことは分からない。
ねえ、それよりも、
叶えてほしい望みはない?」
天使は私に尋ねた。
「……………望み?」
「うん。その代わり望みが叶ったときに
キミの魂をもらうことになるけどね」
私の中の望みはたくさんある。
私の家族を殺した兵隊たちへの復讐。
もう一度だけ、家族と会いたい。
あの兵隊たちを追い払えるくらいに、
強くなりたい。
「でも、望みが叶ったら、
あなたに魂をとられるのでしょう?
私そんなのは嫌だわ」
「いいのかい?
あの時のように、弱いままで」
天使は私の心の内を全て、
見透かしているようだった。
「それにわたしに
魂を取られるといっても、
"死ぬわけじゃない"んだ。
"人間らしく"いられるかどうかは
置いといてね」
そうか。死ぬわけじゃないんだ。
それに、自分の望みが叶うなら、
悪くない取引だ。
「分かったわ。
本当に私の望みを叶えてくれるなら、
この魂をあなたに捧げるわ」
「よし、決まりだね。
これで、キミの望みは叶うはずだよ」
「え?」
「そう。今からキミの願いは始まった。
キミが強くなる未来は、
必ず約束されているよ」
「え?どういうことなの?」
「大丈夫。時間が経てばその時は来るよ。
次会う時は魂を貰いに来るからね」
そう言うと、天使は白い羽を広げて、
空へ飛んでいってしまった。
思えば当時の私は8歳。
8歳の子どもがその天使の言葉の
本当の意味を理解するのは、
きっと、難しかったのかもしれない。

